[セミナー開催報告]
良い認知症ケアとは?医療・福祉職ができること ~基礎知識のおさらい・皆さんのご質問にお答えします~
当ステーションでは、2024年11月30日(土)、府中よりそいクリニック院長の青栁医師をお招きし、オンラインセミナーを開催いたしました。医療・介護職の皆様にご参加いただき、認知症ケアの本質について共に学ぶ貴重な機会となりました。
【開催概要】 日時:2024年11月30日(土)15:00~16:10 形式:オンラインセミナー 講師:府中よりそいクリニック 院長 青栁医師
参加者:医療・介護職の皆様
【セミナー内容】
■ 認知症ケアの基本的理解
- 認知症ケアが難しい理由 ・病識(自分が病気であるという認識)がない疾患であること ・治療をしても必ず進行していく特徴 ・高齢者の場合、多くが身体疾患を合併 ・専門医だけでは対応できない患者数の多さ
- 認知症の基礎知識と種類 (1) 主な原因疾患 ・変性疾患による認知症(全体の約60%がアルツハイマー型認知症) ・血管性認知症(脳梗塞・脳出血による) ・レビー小体型認知症 ・前頭側頭型認知症
(2) 治療可能な認知症 以下のような原因による認知症は、早期発見・治療により回復の可能性があります: ・正常圧水頭症 ・慢性硬膜下血腫 ・ビタミンB群欠乏 ・甲状腺機能低下症
■ 実践的なケアの方法
- 効果的なコミュニケーション 【基本的な対応】 ・突然の声かけを避ける ・視界に入るように前から近づく ・毎回が初対面かもしれないという意識での丁寧な対応 ・その人の生活歴や性格を考慮した個別的なアプローチ
【記憶障害への具体的な対応例】 ・過去の出来事を否定して説得するのではなく、未来の予定を伝えて安心感を与える (例:「さっき食べたでしょう」ではなく「次のお食事は○時ですよ」) ・その場その場での柔軟な対応 ・気持ちに寄り添う姿勢を保つ
- 家族へのサポート 【重要なポイント】 ・本質的な「傾聴」の実践(安易な助言を避け、まずは話を聴く) ・家族の気持ちの吐き出し口となる ・利用可能な支援制度の具体的な案内 ・介護負担による精神的ストレスへの配慮(介護者の約50%が何らかの鬱状態との報告あり) ・必要に応じた家族の受診の提案
- 症状別の対応方法 【妄想・興奮時の対応】 ・否定も肯定もしない ・一時的に場を離れる ・話題を変える工夫 ・重度の場合は医療との連携を検討
■ 参加者からの主な質問と回答
Q1:認知症の方とのコミュニケーションで、感情面の安定や信頼関係の構築に役立つ具体的な方法や注意点は何でしょうか?
A:認知症のケアに「絶対これがいい」というベストな方法は存在しません。認知症の種類、進行度、個人の性格、これまでの人生歴、周りの人との関係性、現在置かれている状況など、様々な要因で対応は変わってきます。
ただし、一つ確実に言えることは、「対人関係のbetterは認知症対応のbetter」ということです。認知症対応は特別なものではなく、人との関係性の一つです。初対面の人に望ましい対応、接客業で望ましい対応は、認知症の方への対応でも同様に望ましいものとなります。
具体的には: ・突然声をかけない ・視界に入るように前から近づく ・丁寧な話し方を心がける ・毎回が初対面かもしれないという意識を持つ
特に記憶障害のある方は、道を歩いてきた跡が消えていくように、なぜここにいるのかわからない不安な状態にあることを理解し、その気持ちに寄り添う対応を心がけることが大切です。
Q2:食事をしたことを忘れてずっと食事を要求してくる、家族が怒ってどうしたらいいかわからないと言っています。このような場合、家族にどのように説明したらよいでしょうか?
A:まず、記憶がなくなることを常に前提条件にすることが重要です。「さっき食べたでしょう」と言っても、その記憶がない人には理解できません。
過去のあったことを認識させて説得するのではなく、それは「なかったこと」にして、未来の予定を伝えて安心感を与える方法が最も適切です。例えば: ・「次のお食事は○時ですよ」と具体的な時間を伝える ・待ち時間のために軽い間食を用意しておく ・食事の話題から他の話題へ上手に切り替える
Q3:認知症の終末期はどうなりますか?認知症の最期って寝たきりになるんですか?よく家族から終末期の状態について聞かれることがあり答えに詰まってしまいます。どう答えたら理解いただけるのでしょうか?
A:体の病気を合併してお亡くなりにならなければ、終末期は寝たきりになります。これは認知症があってもなくても人間なら全員同じです。認知症だから寝たきりになるのではなく、人間は病気せずにずっと生きていけば、最後は必ず寝たきりになります。
認知症は脳に異常なタンパク質が蓄積することで、老化のスピードが早まっている状態と考えることができます。ただし、そのスピードには個人差があり、来年寝たきりになるのか、途中で他の病気を併発するのか、あるいは100歳を超えてもピンピンしているのか、予測することは困難です。
大切なのは、「いつ寝たきりになるか」を考えるのではなく、今日の困りごとと、今日少しでもハッピーになる方法を一緒に考えることです。そして、「もし寝たきりになった時は、必ず一緒に考えましょう」と伝えることが重要です。
Q4:訪問看護を利用していた認知症の方で、物盗られ妄想の症状が強く、他者の訪問によって精神状態が不安定となり、ご家族の希望もあり、訪問看護が中止となった経緯があります。どのような対応が良かったのでしょうか?
A:しょうがない場合もあります。どうにもできないことはあります。タイミングを改めて再度入れたらうまくいくケースもありますし、その時点で「ちょっと今無理だよね」と引けたのはむしろ英断だったと思います。訪問看護師は責任感が強く、入れないとめちゃめちゃ責任を感じてしまう方が多いのですが、ダメだったら引こうと依頼する方も思っていますし、「今はダメだったんだね」ということで主治医に返していただければそれで大丈夫です。また必要な時にはお願いします。
Q5:認知症の人の薬がすごい量です。内科は何も問題なしです。医師に薬のことを話すことについてどうしたらよいでしょうか?
A:皆さんは何を足すかを考えがちですが、何を引くかを考えることも大切です。例えば、全然関係ないと思っている胃薬などでも興奮が起きてしまうものもあります。内科のお薬の中でも、これをやめた方がいいというものを知っておくことは大事です。ただし、どんなに工夫をしても、重症すぎる場合は難しいこともあり、そういった場合は入院治療などを検討することになります。
Q6:認知症の疑いの利用者に対して本人は受診の必要性を感じていないため、関わり方等をご教示いただけますか?
A:まず「誰が受診の必要性を感じているのか」を整理することが重要です。 以下のような場合は受診が必要です: ・介護保険が未利用でどうしても必要がある場合 ・精神症状がひどく、家族や支援者が対応に困っている場合 ・急激に物忘れが進行している場合(治療可能な認知症の可能性)
ただし、デイサービスなどもちゃんと使っていて、物忘れがあるだけで誰も困っていないのであれば、無理に受診を急がなくてもよいケースもあります。何か介入しようとする時は、誰が何に困っているのかを必ず整理してください。
明らかに受診が必要なのに拒否している場合は、健康診断に行こうと言って連れて行くなど、様々な方法があります。ただし、その場合は事前に受診先に状況を伝えておく必要があります。
Q7:車の運転をやめた方が良い認知症で要介護1の人がいて困っています。どのようにしたらよいでしょうか?
A:すぐに主治医に伝えた方が良いと思います。これは本当に洒落にならない問題です。説得してもどうにもならない時は多いので、私の場合は家族に鍵を隠してもらっています。ただし、本人には「運転できないから鍵を隠したわよ」などとは言わせてはいけません。「鍵がない、どこ行ったんだろう、やばくない?」と探したふりをして、毎回なんとか流して、そのうち廃車にしていただければと思います。とにかく、まずは鍵を隠すことをお勧めします。
Q8:認知症に伴う妄想や勘違いによる怒りっぽい性格による症状で家族がストレスを受けている場合、家族への対応、看護介入方法はありますか?
A:まずはその家族が正しい対応方法ができているか確認しましょう。認知症の妄想は否定も肯定もしない、めちゃ怒り出したら一旦その場を離れる(お腹痛いからちょっとトイレ行ってくるでもいいですが、その人が忘れちゃうぐらいまで10分離れる)、もしくは「じゃあその話聞くからお茶飲んでから話そっか」とか他の話題にそらすなど、基本的な方法を確認します。
家族がする必要のない否定をすることで患者さんの怒りを倍増させていることが多いです。「わけないでしょ」「あんたが忘れてるのよ」という絶対NGワードを発していないかどうか、まずは確認が必要です。
ただし、認知症はあくまで脳の病気なので、重症度によっては対応を上手にしてもどうにもならないケースがあります。対応でなんとかなるレベルとどうにもならないレベルがあるので、精いっぱい対応してもどうしようもない時は薬物療法であったり、入院治療を考えるということも大切です。
これらの質問は、実際の現場で直面する具体的な課題であり、一つ一つの状況に応じた丁寧な対応が必要です。また、これらの対応に正解はなく、その時々の状況や個人に合わせた柔軟な対応が求められます。
以上が、セミナーでの質疑応答の詳細な内容となります。これらの実践的な質問と回答は、日々の認知症ケアの現場で直接活用できる貴重な情報となりました。
■ 認知症ケアで大切にしたい考え方
- 考え方の転換 「認知症の症状は諦めても、幸せになることは諦めない」 ・完璧な解決策を求めすぎない ・その人の人生に寄り添う姿勢を持つ ・認知症ケアは長い緩和ケアという視点を持つ
- 支援者自身のケア ・適度な運動の実施 ・十分な休息の確保 ・ストレス解消法を持つ ・支援者自身の心身の健康管理の重要性
本セミナーを通じて、認知症ケアにおける「その人らしさ」の尊重と、支援者自身のケアの重要性について、改めて考える機会となりました。今後も地域の認知症ケアの質の向上に向けて、継続的な学びの場を提供してまいります。
最後になりましたが、貴重な学びの機会を提供してくださった青栁先生、そしてご参加いただいた皆様に心より御礼申し上げます。引き続き、地域の認知症ケアの向上に努めてまいりますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。
セミナー資料は以下から閲覧・ダウンロードできます。